福岡高等裁判所 平成7年(ラ)40号 決定
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一 抗告の趣旨
福岡地方裁判所が平成七年二月一六日に言渡した債権管理命令申立却下決定(原決定)を取り消し、更に相当の裁判を求める。
二 抗告の理由
別紙のとおり
三 判断
抗告人の主張は、要するに、抗告人は医師である債務者丙川春夫に対する公正証書に基づき、債務者が第三債務者である社会保険診療報酬支払基金及び福岡県国民健康保険団体連合会に対し当月分を翌月一〇日までに請求する診療報酬債権にして未請求の平成六年七月分から一〇月分までの診療報酬債権を差押えた(福岡地方裁判所平成六年(ル)第二五一七号)が、債務者が第三債務者に対し診療報酬債権の請求手続をしないため、その換価方法として民事執行法一六一条所定の債権管理命令を発することにより管理人を選任し、診療報酬債権の請求業務及びその債権の回収を管理させることにより執行の目的を実現したいというにある。
そして、診療報酬債権は、債務者たる医師がなした診療行為につき、債務者が第三債務者に請求することにより、第三債務者から債務者に約二か月後に支払われるという性質の債権であるから、債権者が診療報酬債権を差押えても、医師が診療報酬債権の請求手続をしないことには、債権者としては取立てもできないのであるから、民事執行法一六一条所定の債権管理命令を発することにより管理人を選任し、管理人をして診療報酬債権の請求業務(レセプトの集計、総括表の作成・提出等)及びその債権の回収にあたらせることは、この種債権執行における換価方法として考慮に値するというべきである。また、選任された管理人において診療報酬債権の請求業務をなすこと自体は、保険医療事務の経験者ないし保険医療事務を業とする法人等を管理人に選任すれば足りることであって、原決定がいうほど困難な作業という訳ではない。
しかし、抗告人の実務担当者である丁原松夫に対する審尋の結果によると、債務者には診療報酬債権からその回収を企図する債権者が多数いて、それが債務者による診療報酬債権の請求が行われない原因になっているようにも窺えるうえ、債務者は既に診療所を閉鎖して転居し医療業務も廃しており、診療報酬債権の請求業務に不可欠のレセプト等の所在も必ずしも明らかではないというのである。このような状況の下で、債権管理命令を発し、管理人を選任してみても、管理人による適切な職務の執行を期待することは著しく困難であるというべきであるから、本件債権執行にあっては、債権管理命令による換価方法を選択することは適当ではないというほかない。
してみると、原決定は結局相当であり、本件抗告は理由がない。
よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 田中貞和 裁判官 宮良允通 裁判官 野崎弥純)